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加藤大治郎事故調査委員会の調査結果報告

加藤大治郎事故調査委員会の調査結果報告

加藤大治郎事故調査委員会の調査結果報告

2003年シーズン開幕戦日本GP決勝レースで発生した加藤大治郎の事故について、第三者機関で構成する『加藤大治郎選手事故調査委員会』の調査結果報告会が28日、東京都内のホテルで開かれた。

委員会には、二輪車の運動解析を研究する景山一郎氏(日本大学生産工学部教授)を委員長に、今泉博英氏(日本大学講師)、片山硬氏(日本自動車研究所安全研究部主任研究員)、恒成茂行(熊本大学大学院医学薬学研究部法医学分野教授)、難波恭司(元GPライダー)の計5人で構成。この報告をもって解散した。

調査結果報告の抜粋は以下の通り:

加藤大治郎選手事故調査委員会は、加藤選手の自己原因究明のために設立した第三者機関である。2003年4月6日に三重県の鈴鹿サーキットにおいて発生した加藤選手の事故について、公正・中立の立場から、多方面の専門家により多角的に分析・解析を行い、客観的な事故原因の究明を目的として4月25日に設立された。

委員会では、鈴鹿サーキット、警察、病院への訪問調査、事故車両およびライディングギア(ヘルメット、レーシングスーツ、グローブ、ブーツ、脊柱プロテクター)の現物確認、車載計測データーと画像データーの解析等の調査を実施。事故の全容解明に向けて、委員会で審議を重ねてきた。

コースに対する検証結果

事故現場のコース配置には二種類の防護体が用いられており、コース外のグリーン部分が特に狭くなる場所までタイヤバリアが配置され、その後の最もグリーン部分が狭い場所からスポンジバリアが設置されていた。また、この二種類の防護体は約120cmの隙間があけられて設置されていた。加藤選手はこの隙間の開いた部分からスポンジバリアの側面に衝突したことになる。
なお、コース改修以前には、今回の事故現場において重大事故は発生していない。コース改修によりテクニカルなコースへと変容したが、FIM(国際モーターサイクリズム連盟)とIRTA(国際レーシングチーム協会)による改修後の確認では、通称130Rの安全性が増した点が評価されたのみで、事故現場の危険性は指摘されなかった。各チームの練習走行会においても、事故現場の危険性は指摘されなかった。FIMによるコース公認証が発行され、レース開催において全ての最終確認が完了していた。

事故車両に対する検証結果

HRCの調査によると、事故車両の分析検証時、エンジン、シャーシ各部の締付箇所の緩みや不適切な組付け等の車両不具合はなかったと報告されている。サスペンションユニット本体に関しては、(株)ショーワにて分析検証が行われ、異常は報告されていていない。ブレーキに関しては、HRC、本田技術研究所および(株)ブレンボ・ジャパンにより解析が行われ、また有限要素法によるコンピューターシミュレーションによる衝突解析やブレーキ台上テスト等が行われ、フロントブレーキディスクの破損は衝突後に起こっているとの解析結果が報告された。
現在のレース車両は、常に走行状態を示すデーターが記録されており、事故直前の車載計測データーを用いた検証を行うことができる。そこで、本委員会ではこのデーターをもとに、上記の報告の確認および解析結果の妥当性について検証を行うこととした。その結果、事故直前のギアシフト操作およびスロットル操作時の車載計測データーには異常が認められず、前後サスペンションについても転倒前周と同様に動作しており、エンジン本体機能および前後サスペンションに不具合はなかったものと判断する。また、衝突の直前直後の映像を検証した結果、防護体衝突直後の車両の映像にフロントブレーキディスクの残存が確認され、さらに破損したディスクの破断面はブレーキキャリパを内側から外側に開く方向となっており、走行中にこのような破断をすることは考え難いため、上記の解析結果にあるように、ブレーキディスクの破損は衝突後に起こったものと判断する。
以上の範囲において、エンジン面、サスペンション、駆動系、ブレーキ、タイヤに関する動作異常等は認められず、衝突直前まで車両の各部における機能面の問題はなかったものと判断される。

レーサーの心理面および操作に対する検証結果

加藤選手の予選順位は11番手であり、グリッド3列目から決勝レースをスタートしなければならなかった。
決勝レースは1周目で7位まで挽回したが、この時点で、トップ3台の集団と加藤選手を含む4台の第二集団は差が開き始めていた。2周目の通称130R進入では大きくイン側にラインを外し、6番手に上がったことがレース中継映像から確認できる。
事故の発生した3周目は、ベイリス、チェカ、加藤、宇川各選手間で4~7位争いを展開。加藤選手も二度順位を入れ替えた。このように、序盤から積極的なレースを展開であることから、早く混戦の中から抜け出しトップ集団に追い付こうとするライダーの心理があったものと推察される。
事故発生直前の通称130R立ち上がりからブレーキングの間に、突発的な挙動変化を起こしたものと判断される。まず加藤選手は、340Rから立ち上がり時、深いバンク角を維持したまま左旋回を行っていた。この状況から通常のブレーキングを行えばバランスを崩すか転倒につながるものと判断される。この状態で加藤選手の車両は、後輪が右側へ瞬時に滑り、その後軽いハイサイドを起こし、その反動で突発的に逆方向へ後輪が流れたことが推測される。この状態で後輪のグリップが回復し後輪の接地荷重が増加し、これに伴いバンク角が変動していることが映像等から推定できる。この一連の挙動変化に伴い車両がウェーブモードを発生させ、左右に大きく(最大1.2G程度)振られたため、加藤選手は体を車両左側に振り落とされた乗車姿勢となった。レーサーの心理としては、何とかリカバリを考えるが、車両に対して左にずれてしまっている乗車姿勢では満足なコントロールができる状態ではなく、バランスを保つことで精一杯であり、左側へとコースアウトした。また、この乗車姿勢では、衝突のダメージを最小限に抑えるためにリアブレーキをロックさせ故意に転倒さえることすらできる状態ではなかったと考えられる。そこで後輪車速が回復した後、衝突までリアブレーキはかけられていないものと判断される。 加藤選手の左手グローブの手掌面にタイヤバリアのものと考えられる赤色の塗料が付着している。これは衝突の瞬間、左手をハンドルから放しバリア面を手掌で受け、衝突時のダメージを防ごうとしたものと考えられ、衝突する瞬間まで危険回避に努力をしたものと判断される。
なお、振動が発生してから、衝突するまでの時間はわずか2秒程度である。

車両運動面からの検証結果

車両がコースを逸脱した直後の原因はウィーブモードが発散したことによると考えられるが、これに至る要因をフェーズごとに検討した結果を以下に示す。
(1)フェーズⅠ(バックストレート部から85Rを通過するまで)
事故が発生した加藤選手の3周目は、バックストレートから85Rへの進入に際し、他の車両3台と並走した状態であったため、十分な減速ができなかった。その結果他の周回に比べ、85R通過時点での車速が高く、大きなバンク角がついている。
(2)フェーズⅡ(340R進入からシケインに進入するための減速を開始する地点まで)
車速が他の周回に比べ高くまたバンク角が大きい状態で340Rを通過しており、車速に関しては、その後の加速段階でやや弱めの加速により、減速開始時(フェーズⅡの終了時)には通常の車速状態となっている。しかしバンク角は回復せず、大きなバンク角を維持したまま、減速開始地点に到達している。
(3)フェーズⅢ(シケイン進入のための減速開始から衝突点まで)
大きなバンク角のまま減速を開始したために、後輪が右側に横滑りを起こし、通常より十分な減速ができなかった。その後フロントブレーキをかけ、エンジンブレーキを効かせながら、シケインへの切り返し操作を行っている。急激な減速のために後輪の接地が弱くなり、車両は不安定な挙動を示した。顕著な後輪のスライドに伴いハイサイドが発生した。この急激なバンク角の変動により乗車姿勢を崩し、身体を支えるためにハンドル左に大きな保舵力を加えることとなった。このスライドからハイサイドに至る間で察知した加藤選手はフロントブレーキを弱めた。その結果後輪の接地荷重が増し、顕著なウィーブモードが誘発された。大きな保舵力を加えられた二輪車は、操舵系の動きがおさえられ(位相が遅れ)、ウィーブモードが発散した。

事故原因のまとめ

一般的に言われているように、事故は複合要因によって引き起こされている。今回の事故も例外ではなく、いくつかの要因が共存しなければ重大事故にはつながらなかったものと判断される。

コースアウトの原因

本委員会では、コースアウトの原因に特に注目し検討を行い、直接事故の引き金がどのように引かれたかについて詳細な結論を導いた。最終的な状況を以下にまとめる。
加藤選手の車載計測データーにおけるフロントサスペンションストローク、後輪車速、リアサスペンションストローク、およびエンンジン回転数から判断すると、減速を行いながらシケインへ向う車両は、1速で走行し、フロントブレーキをかけ足している。後輪スリップ率が約30%近くになった時点で、シケインへの進入に備え車体を進行方向右側へバンクさせるための切り返し操作を行ったと推測される。特に、後輪スリップ率の上昇は車両の安定性に必要なコーナーリングフォースの減少を引き起こしているものと考えられる。このため車両は不安定な挙動を示し始めたものと考えられる。
車載計測データーから判断すると、フロントブレーキのかけ足しにより後輪荷重は急激に変化し、後輪はほとんど浮き上がった状態となり、横すべりが発生したものと判断される。その後のサスペンションの変化およびGセンサのデーターから判断すると、ハイサイドの挙動と酷似した状態が確認できる。なお、これはシリース第12戦リオGPの予選2日目におけるジベルナウ選手のハイサイドによる転倒時の画像および車載計測データーを参考とした。
車載計測データーから判断して、上記の急減速時に発生した不安定な挙動に対処するために、加藤選手はフロントブレーキを弱めていることが分かる。この結果後輪のコーナリングフォースが回復し、後輪に横加速度が発生し、車両には急激なヨー運動が生じ、ウィーブモードが発生したと考えられる。特に、上記の後輪の横すべりからハイサイドに至る過程において加藤選手は乗車姿勢を崩し、身体を支えるためにハンドル左に大きな保舵力を加えたものと判断されるが、このような保舵力が強く与えられた状況でウィーブモードが発生した場合、ステアリング系の運動に遅れが生じ、ウィーブモードは発散することが知られている。この一連の挙動変化に伴い、加藤選手は姿勢を大きく崩したことがシケイン方向から撮影された映像から裏付けられる。
バックトルクリミッター(急激なシフトダウン時に発生するバックトルクを、クラッチを滑らせることによって減少させ後輪のホッピング現象を緩和させる機構のこと)によるものか、加藤選手が意識して操作を行ったかは明らかでないが、この時点でクラッチが切れていることが車載計測データーの解析結果分かる。クラッチが切れていたことがウィーブモードの発散を助長させた可能性もあるが、どの程度発散に影響していたのかは不明である。
以上の検証結果から、このウィーブモードの発散が最終的にコースアウトを引き起こした引き金になったものと考えられる。
ウィーブモードの発生が加藤選手の車両特有のものであったかが重要となるため、他選手の車載計測データーを検証した。第1戦日本GPの宇川選手の車載計測データーには、通称130Rを通過し、シケインに向けての減速開始時に明確なウィーブモードが確認できるが、この場合発散には至っておらず、特にこのレース以後も問題は起きていない。
このように、ウィーブモードは加藤選手の事故と同じレースにおける他選手の走行中にも発生しており、この点からも一般的な振動現象であると考えられる。しかし、今回の事故の場合、車両の限界状態での走行であり、フェーズⅢで示した経緯をたどり、いくつかの条件が重なって発散に至ってしまったものと判断される。

重大事故に至った原因

重大事故に至った原因検討であるが、もちろん死亡の直接な原因は高速でのバリアへの衝突によるものであり、特に、タイヤバリアと接触しながら走行してきた加藤選手が、タイヤバリアからスポンジバリアへのつなぎの部分においてスポンジバリアの側面に一瞬埋まり込んだために、致命的な頚椎損傷を受けたことになる。結果から見ると、コースから飛び出した場所がエスケープゾーンであり、コース外で十分に減速することができれば単にコースアウトで済んだ可能性が大きい。また、二つのバリアの間に隙間がなかった場合、加藤選手はスポンジバリアの側面に衝突することはなく、受傷の大きさおよび形態が異なっていたものと判断される。
なお、今回の事故現場では過去に死亡事故は発生しておらず、コース改修によりテクニカルなコースへと変容したが、事故現場の危険性は各チームの練習走行会においても指摘されておらず、FIMによってコース公認証が発行されており、レース開催において全ての最終確認も完了していたことから、ライダーを含めこの場所の危険性に対する認識はなかったものと判断する。

Tags:
MotoGP, 2003

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