世界選手権が1949年に初開催されてから73年目となる2021年シーズンは、3月28日、2007年から15年連続してオープニングラウンドの開催地に指名されたロサイル・インターナショナル・サーキットで開幕戦カタールGPが開幕。最高峰クラスにエントリーする22名のレギュラーライダーたちが、頂点を目指し、タイトル争いに挑む。
新型コロナウイルスの感染拡大により、7月中旬から11月中旬まで、4ヶ月間で14戦が開催された短期決戦の2020年シーズンは、史上最多優勝者タイとなる9人が優勝。5人が初優勝を挙げ、15人が表彰台を獲得する接戦となり、最多7度の表彰台を獲得したジョアン・ミルが最高峰クラス2年目でタイトル獲得に成功。改めて一貫したパフォーマンスが勝敗を左右する要因であることを証明した。
キャリア5年間で2度のタイトルを獲得した23歳のスペイン人ライダーは、まだまだ成長の伸びしろがあり、スズキが開発するプロトタイプマシン『GSX-RR』は、2015年に復帰してから毎年確実に戦闘力が高まっていることから、今年もタイトル獲得の有力候補の1人。タイトル連覇に向けて、予選順位を課題に挙げている。
チームメイトのアレックス・リンスは、緒戦となった第2戦スペインGPの公式予選で右肩を強打したことが大きく影響したが、自己最高位の総合3位に進出。2018年の総合5位、2019年の総合4位と確実に成績を伸ばし、チーム部門を初制覇したチーム・スズキ・エクスターと共にタイトル獲得に挑む。
終盤に最多ポイントを獲得したのはフランコ・モルビデリ。ヤマハ勢で唯一型落ちのAスペックマシンを走らせ、第4戦チェコGP以降は、2基のエンジンを遣り繰りして最終戦ポルトガルGPで参戦していたが、最高峰クラス3年目で初表彰台と初優勝、シーズン最多タイとなる3勝を挙げ、自己最高位の総合2位を獲得。エンジントラブルと2度の接触が原因でポイントを失ったが、トップ周回数が最多の97ラップを記録。22名中唯一のチーム契約で、今季もAスペックが供給されるが、徹底的にセッティングを詰めて行き、タイトル争いに挑戦する。
ヤマハのファクトリーチームから5年目を迎えるマーベリック・ビニャーレスは、エンジンの問題により、パワーダウンを強いられ、第3戦アンダルシアGPから2基をローテーションで使用していたが、第13戦ヨーロッパGPでは6基目の投入を強いられ、第6戦スティリアGPではブレーキの問題でバイクから飛び降りることを強いられたが、終盤までタイトル獲得を展開。さらに、カル・クラッチローがテストライダーとして本格的なテストプログラムを欧州で計画していることから、幾つかの不安要素が払拭され、レースに集中できる環境が整った。
ストップ・ザ・マルケスの有力候補に指名された中、2戦連続のポール・トゥ・ウインでスタートダッシュを決めたファビオ・クアルタラロは、第9戦カタルーニャGPで3勝目を挙げ、シーズンを通じて最多4度のポールポジションと年間予選最速者『BMW M Awards』のタイトルを獲得したが、決勝レースでの成績が安定せず、44ポイント差の総合8位に後退。2年目のジンクスに苦しんだ印象も残ったが、精神面を鍛えて挑むファクトリーライダーとして、チャンピオンを目指す。
2007年以来2度目となるコンストラクター部門のタイトルを獲得したドゥカティ勢の筆頭は、ファクトリーチームに昇格したジャック・ミラー。ティアオフ、エンジントラブル、後方から追突により3戦を落としたが、ドゥカティ勢最多となる4度の表彰台を獲得し、自己最高位の総合7位に進出。エースライダーとの自覚が芽生え、同胞のケーシー・ストーナーが成功した2007年以来となるタイトル獲得に挑戦することを宣言。
3勝を含む8度の表彰台を獲得したKTMは、デビューから3戦目で初優勝を挙げたブラッド・ビンダーと2勝を挙げたミゲール・オリベイラのコンビを再結成。軽量級と中量級時代にお互いを切磋琢磨しながらスキルを向上させ、優勝、タイトル争いを繰り広げてきた若手2人と2メーカーでの優勝を狙う新加入のベテラン、ダニロ・ペトルッチがタイトル獲得に初挑戦。
2020年はコンセッションを活かして、プライベートテストを実施したサーキットで好成績を収めてきたが、今年は優遇措置の恩恵を受けらず、同等な条件で参戦5年目に挑むことになるが、他メーカーが昨年からエンジンの開発が凍結されている中、開幕時までニューエンジンの開発が許可されている。
1982年以降初めて未勝利に終わったホンダは、テストライダーのステファン・ブラドルが12月、1月、2月にヘレス・サーキット‐アンヘル・ニエトでプライベートテストを実施。タイトル奪回に向けて、技術規則に従い限られた範囲の中で徹底した開発作業を繰り返す一方で、マルク・マルケスは右上腕骨骨折からの復帰に向けて、リハビリを継続。オフィシャルテストの参加が見送られ、復帰するグランプリが決まっていないが、過去に見せて伝説的な逆転劇、12勝を含む18度のトップツーフィニッシュを達成した2019年のパフォーマンス、転倒直前までの驚異的な巻き返しなど、マルケス兄に関しては、現時点でタイトル候補から落選することはできない。
3冠奪回を目指すホンダのファクトリーチーム、レプソル・ホンダ・チームに新加入したポル・エスパルガロは、2度の接触転倒を喫したが、5度の表彰台獲得。終盤には4戦連続のトップ4進出で自己最高位となる総合5位に進出。例年よりテスト日数が少ないが、KTM機からの乗り換えに注目が集まる。
タイトル争いのダークホース的存在になるのは、ドゥカティのファクトリーチームに昇格したフランチェスコ・バグナイア。膝の負傷から復帰したホームレースのミサノ1で初表彰台を獲得すると、ミサノ2では転倒するまでトップを快走していた。
ドゥカティ2年目となるヨハン・ザルコは、第4戦チェコGPでポールポジションから3位を獲得。今季はドゥカティから2021年型のプロトタイプマシンが供給される。
最高峰クラス4年目を迎える中上貴晶は、第12戦テルエルGPで日本人ライダーとしては2004年最終戦バレンシアGPの玉田誠以来16年ぶりとなるポールポジションを獲得。4度のトップ5入りを果たし自己最高位となる走行10位を獲得した後、今季はHRCから供給される2021年型『RC213V』で、2021年最終戦バレンシアGPの中須賀克行以来の表彰台、2004年第12戦日本GPの玉田誠以来となる優勝を狙う。
決して忘れてはいけないのは、バレンティーノ・ロッシ。25年目のシーズンは新型コロナウイルスの影響を受け、キャリアで最悪の成績となる総合15位に低迷したが、第3戦アンダルシアGPで史上最長となる25年連続の表彰台を獲得。2017年の第8戦TTアッセン以降優勝を挙げていないが、心機一転、サテライトチームに移籍。ヤマハからフルスペックの『YZR M1』の供給が約束されている。
最高峰クラスは、3月5日にテストライダーとルーキーライダーの参加が許可されているシェイクダウンテストからテストが始まる。