チャンピオンシップ77年目のシーズンは、『より速く、より前に、より恐れずに』というスローガン通り、開幕戦タイGPからダイナミックで予想不可能な展開が続いた後、今週末にシルバーストン・サーキットで第7戦イギリスGPを開催。1949年から1976年まで開催されていたマン島でのツーリスト・トロフォーを含め、イギリスでは史上初めての5月開催となり、今週末も地球上で最もエキサイティングなスポーツに相応しいバトルが約束されている。
狙いはアドバンテージの拡大
プレシーズンの課題に挙げていたショートレース、ティソ・スプリントで開幕戦から6戦連続の優勝を挙げたマルク・マルケスはポイントリーダーの座を奪回すると、決勝レースではミスを最小限に抑えることに徹底して2位。今季4度目のトップ2入り、プレミアクラスのポディウムランキングで単独2位となる115回目の表彰台を達成したことから、タイトル争いのライバルたちに対して、ポイント差を拡大。今週末は2014年の優勝を含め3度の表彰台を獲得、1年前に7番グリッドから転倒と4位だった右回りトラックで、ポイントリーダーの維持、ポイント差の拡大を目指す。
ティソ・スプリントで6戦連続の2位を獲得したアレックス・マルケスは、総合2位に後退した後、決勝レースでは2度の転倒が影響して、表彰台を逃しただけでなく、今季初のリタイアを喫したことから、高速トラックで22ポイント差を詰めに行く。
ティソ・スプリントが導入された2023年以降、初めて週末にポイントを稼ぐことができなかったフランチェスコ・バグナイアは、総合3位を維持したが、ギャップがマルク・マルケスから51ポイント差、アレックス・マルケスから29ポイント差に拡大。シーズンスタートから抱えているフロントのフィーリングをどのように得られるかがパフォーマンスとリザルトを左右することから、週末を通じて、2022年に優勝を挙げたトラックでどこまで改善できるのか注目が集まり、前戦終了後、ドゥカティ・コルセは全面的に支援することを宣言していた。
フランチェスコ・バグナイアだけでなく、総合4位フランコ・モルビデリと総合5位ファビオ・ディ・ジャンアントニオにとっても困難な週末となったが、新人フェルミン・アルデグエがティソ・スプリントと決勝レースで表彰台を獲得し、新人勢の最高位となる総合8位に躍進。2023年にキャリア初優勝を挙げた舞台でどのようなパフォーマンスを見せるのか関心が高まる。
ドゥカティに挑戦するホンダ
ルマンでカオスとなったレースを制したチャンピオンシップ最年長のヨハン・ザルコは、地元で初優勝、プレミアクラスで2勝目、ホンダに43戦ぶりとなる勝利をもたらし、ドゥカティ勢に続く総合6位に浮上。
同時に、ホンダが1998年に記録した22連勝に並んだドゥカティの史上最多連勝の新記録を阻止し、コンストラクター部門で総合4位から2位に浮上。今週末はホンダが当地で2014年以来となる優勝、2019年以来となる表彰台を目指すことになり、総合13位ルカ・マリーニは今季5度目のトップ10入り、今季2度目の1桁台進出を狙う。
前戦の転倒を喫した際に右手を骨折した19位ジョアン・ミルと第5戦スペインGP後に右前腕の手術を受けたソムキアット・チャントラは、回復次第で開幕前日のメディカルチェックを受ける。
ホンダは、テストプログラムを継続する目的で3戦連続してワイルドカードを利用。第5戦スペインGPで参戦したテストライダーのアレイシ・エスパルガロが2021年に表彰台、2023年に優勝を挙げたトラックで開発中のバイクに乗り込む。
狙いは今季初表彰台
パフォーマンスが向上しているKTM。第5戦スペインGPで総合11位マーベリック・ビニャーレス、第6戦フランスGPで総合9位ペドロ・アコスタが4位に進出。ルマンでは総合14位ブラッド・ビンダーが序盤に3番手を走行すれば、総合15位エネア・バスティアニーニは転倒後に4度のロングラップペナルティを消化しながらポイント圏内で完走。
今週末はマーベリック・ビニャーレスが7年前にプレミアクラスで初優勝を挙げ、ブラッド・ビンダーが2年前にKTMの最高位となる3位、エネア・バスティアニーニが1年前にダブルウィンを達成したシルバーストン・サーキットで昨年10月の第18戦タイGP以来となる今季初表彰台、そして2022年10月の第17戦タイGP以来となる今季初優勝を狙う。
更なる飛躍を目指すヤマハ勢
ヤマハはオフィシャルテストで試した新しいスペックのエンジンを4人に供給。総合7位ファビオ・クアルタラロは2戦連続のポールポジションからティソ・スプリントで今季最高位となる4位に進出。総合16位アレックス・リンスはヤマハから参戦23戦目で初めてポイント圏内に進出。総合17位ジャック・ミラーは3戦ぶり2度目となる公式予選2への直接進出を果たしたことから、トップスピードが時速340キロに到達する高速トラック、シルバーストン・サーキットでどのようなパフォーマンスを見せるのか興味深く、復帰2戦目となる総合23位ミゲール・オリベイラにとっては、週末のリズムを掴んで、パフォーマンスを向上させたいところ。
2021年に優勝を挙げたファビオ・クアルタラロと2019年に優勝を挙げたアレックス・リンスは、ミサノ・ワールド・サーキット-マルコ・シモンチェリでプライベートテストを実行したことから、さらなるアップデートが投入されるのかどうかにも注目が集まる。
戦闘力を確認する絶好の機会
ルマンでは困難な週末に陥ったアプリリアだが、2021年にポールポジションから初表彰台となる3位、2022年に2位、2023年には優勝を挙げ、2024年はポールポジションから6位。過去のパフォーマンスを比較する機会となり、2年前にマルコ・ベツェッキ、1年前には小椋藍がポールポジションを獲得していたことから、どのようなパフォーマンスを披露するのか興味深く、「昨年はアプリリアが競争力を発揮していたし、僕にとって良いサーキットなので楽しみ。トラックは非常に長く、あらゆる部分を理解するのは簡単ではない。少し複雑になり、厳しいレースになると思う。コンディションを確認しよう」と活動の拠点から当地に向けて出発する前に小椋が発言。
気象状況
月曜日の時点で、金曜日と土曜日は最高気温が18度の晴れとなるが、全てのトラックセッションが終了したあたりから日曜日最初の決勝レースとなる『Moto2™』が始まる前まで雨が予報されていることから、前戦に続き、天候がレースの行方を大きく左右するかもしれない。
Moto2™
ポイントリーダーのマヌエル・ゴンザレスは、ルマンで3戦連続5度のポールポジションから2戦連続の3勝目を挙げ、ライバルたちとのポイント差を拡大。開幕戦タイGPから速さと強さを誇示していれば、総合2位アロン・カネトは今季3度目の表彰台を獲得した後、昨年2年連続の2位を獲得したシルバーストンでポイントリーダーに挑戦することを宣言。
総合3位ジェイク・ディクソンは、マヌエル・ゴンザレスから34ポイント差、アロン・カネトから18ポイント差にギャップが広がったが、昨年優勝を挙げたホームグランプリでポイント差の挽回を目指す。
今週末の注目は、2戦連続2位を獲得して総合4位に浮上したバーリー・バルトゥス、2戦連続4位の総合5位ディオゴ・モレイラ、プレシーズンの負傷が原因で出遅れていたが、オフィシャルテストで総合1番手に進出した総合21位ジョー・ロバーツと総合2番手の総合26位セルジオ・ガルシア。オフィシャルテストで最多110ラップを周回した國井勇輝と佐々木歩夢の日本勢は、今季初にポイント圏内入りを目指す。
第5戦スペインGPで肩を亜脱臼したマリオ・アジと前戦で肺挫傷を負ったアレイシ・エスクリチの参戦は未定。出走する場合には、メディカルチェックを受ける必要があり、前戦で左腕を骨折したダーリン・ビンダーとオフィシャルテストで転倒した際に左鎖骨を骨折したアドリアン・ウエルタスは欠場。
Moto3™
前戦フランスGPで2戦連続4勝目を挙げたホセ・アントニオ・ルエダは、転倒が原因で今季初めてポイントを加算できなかった総合2位アンヘル・ピケラスに対して、ポイント差を4から29に拡大。ホセ・アントニオ・ルエダがアドバンテージを広げられるか、アンヘル・ピケラスが1戦で逆転が可能なポイント差に詰められるか注目が集まる。
19歳と18歳のスペイン人ライダーを追いかけるのは、21歳のオーストラリア人ライダー、ジョエル・ケルソ。2戦連続3度目の表彰台を獲得した勢いに乗って、初優勝を追求しながら、39ポイント差のホセ・アントニオ・ルエダ、10ポイント差のアンヘル・ピケラスに挑戦。
総合4位アドリアン・フェルナンデェスと総合5位古里太陽によるホンダ勢の最高位争い、総合6位アルバロ・カルペ、総合14位マキシモ・キレス、総合15位グイド・ピニの新人王争いも興味深く、前戦で今季初表彰台を獲得した総合13位ダビド・ムニョス、オフィシャルテストで総合1番手に進出した総合20位バレンティン・ペローネ、テストで積極的に周回を重ねた総合8位山中琉聖らのパフォーマンスも注目。
第3戦アメリカズGPで表彰台を獲得した後のトレーニングアクシデントが原因で右脚の脛骨と左腕の上腕骨を開放骨折したマッテオ・ベルテッレは4戦連続の欠場。レベルアップ-MTAはビセンテ・ペレスを代役として継続起用すれば、第2戦アルゼンチンGPで右手首を骨折したマルコス・ウリアルテと第5戦スペインGPで右手首の橈骨を骨折したルケ・モードレーの復帰は現時点で未定。