最終戦決着の末、チャンピオンが決定してから15週間後、地球上で最もエキサイティングなスポーツのシーズンが今週末に史上初めて開催地に指定されたチャーン・インターナショナル・サーキットで幕開け。史上初のファンイベント、シーズンローチンを経て、史上最多となる全22戦のグランプリが始まる。
ドリームチーム
5年連続6度目のコンストラクター部門を連覇したドゥカティは、チャンピオンマシンの2024年型をベースとしたバイクと完成度の高い2024年型を準備。2年ぶり4度目のチーム部門を制したドゥカティ・レノボ・チームはゼッケンナンバーを『63』に戻した前王者フランチェスコ・バグナイアのチームメイトに元王者マルク・マルケスを指名。両者合わせて通算10度のタイトルを獲得したことから、世界中のファンからドリームチームと称賛するコンビを結成。プレシーズンのオフィシャルテストでは、タイトル奪回を狙う2人が協力し合い、2025年と2026年に使用するエンジンをはじめ、シャーシやエアロパッケージなどのテストプログラムに取り組んでいた。
ファクトリーチームの2人と共に新車が供給されるファビオ・ディ・ジャンアントニオは、今年最初のオフィシャルテスト初日に左鎖骨を骨折。昨年11月の最終戦ソリダリティGP後に実施されたオフィシャルテストを含め、2日目以降のテストを欠場し、2月9日に昨年11月に左肩を手術したイタリア・ローマ市内の病院で施術を受けたことから、開幕戦で回復具合を確認し、昨年使用した2023年型からの乗り換えを始める。
昨年全20戦で決勝レース19勝、ティソ・スプリント17勝、ポールポジション14回を獲得した完成度が高いチャンピオンマシンが供給されるアレックス・マルケスとフランコ・モルビデリは新しいパーツを試す替わりに、電子制御とセッティング、ライディングを徹底的に磨き上げることに専念すると、プレシーズンを通して安定した高いパフォーマンスを披露。シーズン序盤に新車の戦闘力を整えるライバル勢を横目で見ながら、虎視眈々とスタートダッシュを狙う。
未知の可能性
アプリリアは初めて4台の新車を準備。初めてチャンピオンナンバー『1』をフロントカウルに貼付。2024年王者ホルヘ・マルティンは今年最初のオフィシャルテストから4年間使用したドゥカティ機からの本格的な乗り換え作業を開始したしたが、初日に2度のハイサイドから転倒した際に右手と左足を骨折したことから2日目以降のテストを欠場。2月7日にスペイン・バルセロナ市内で右手の手術を受け、開幕戦に向けて順調に回復していたが、2月24日にトレーニングアクシデントが原因で左手と左足を骨折。2月25日に左手を手術ことから欠場することになり、デビュー戦はお預けとなった。
アプリリア勢で唯一アプリリア機を継続使用するラウール・フェルナンデェスも初日のハイスピードクラッシュが原因で右手と左足を骨折したが、翌日の2月7日にスペイン・バルセロナ市内で右手の手術を受け、当地で開催されたオフィシャルテストに参加すると、遅れていたテストプログラムを取り戻そうと131ラップを周回。
初めてファクトリーチームに所属するマルコ・ベツェッキは、3年間使用したドゥカティ機からアプリリア機への乗り換えと理解度向上を目的に、プレシーズン最初のオフィシャルテストから6日間で最多となる420ラップを周回。プレシーズン最後のオフィシャルテストでは総合3番手に進出したことから、開幕戦ではドゥカティ勢の対抗馬一番手、ダークホースとして注目が高まる。
シャークアタック
コンストラクター部門を2年連続して総合2位を獲得したKTMは、総合4位エネア・バスティアニーニ、総合5位ブラッド・ビンダー、総合6位ペドロ・アコスタ、総合7位マーベリック・ビニャーレスを起用。自他共に認めるKTM史上最強のラインナップを結成すると、ファクトリーチームのブラッド・ビンダーとペドロ・アコスタは限られた5日間でテストプログラムに集中。特にペドロ・アコスタは2年目の飛躍を予感させるパフォーマンスを見せれば、エネア・バスティアニーニとマーベリック・ビニャーレスは乗り換え作業に専念。エネア・バスティアニーニは4年間使用したドゥカティ機からの乗り換えに困惑した表情を浮かべていたが、マーベリック・ビニャーレスはスズキ機、ヤマハ機、アプリリア機からの4メーカー目となるKTM機の理解度が増しているようだ。
反撃の狼煙を上げるか?
2022年にライダー部門とコンストラクター部門で総合2位に進出したヤマハだったが、2023年はライダー部門の最高位が総合10位、コンストラクター部門は総合4位に後退。2024年はライダー部門の最高位が総合13位、コンストラクター部門は2年連続の総合4位に低迷したが、2023年にチーム部門とインディペンデントチーム部門の2冠を達成し、2024年にはチャンピオンを輩出したプラマック・レーシングとのコラボを開始。
セカンドファクトリーチームを起用することで、2022年以来となる4台体制を整え、コンセッションの優遇措置を利用して、シェイクダウンテストの2日目からテストプログラムを開始。モンスターエナジー・ヤマハのファビオ・クアルタラとアレックス・リンスはテストプログラムに着手すると、プリマ・プラマック・ヤマハのジャック・ミラーとミゲール・オリベイラはクラスで唯一、直列4気筒エンジンを搭載するヤマハ機への乗り換える作業に集中。ホンダ機、ドゥカティ機、KTM機に続き、4メーカー目となるジャック・ミラーは乗り換え組の中で最も早く適応した走りを見せたが、パドックの中で最も頭脳的なライダーの1人として評価されるミゲール・オリベイラは適応過程中。
ポジティブなウインターテスト
ヤマハ同様にホンダも今年2度のオフィシャルテストでポジティブなリザルトとパフォーマンを披露。ジョアン・ミル、ルカ・マリーニ、ヨハン・ザルコは昨年10月の第18戦タイGPと11月の第19戦マレーシアGPを大幅に上回る走りを見せたことから、開幕戦、特にテストを実施しなかったシーズン序盤のグランプリで向上した戦闘力を確認したいところ。
さらに、テストチームが強化され、積極的にプライベートテストを実行することから、シーズンを通じたリザルトとパフォーマンスの向上に期待が高まる。
ルーキー初見参!
昨年はペドロ・アコスタ、一昨年はアウグスト・フェルナンデェスの1人だけだったが、今年は3人の新人がプレミアクラスに初見参。中量級王者の小椋藍は3度のオフィシャルテストで最多タイの420ラップ、3日間のシェイクダウンテストで167ラップ、計587ラップを周回。アプリリア機に乗り込んでクオリティの高い周回を重ね、ロングランも実行。19週間前にタイトルを獲得したチャーン・インターナショナル・サーキットでプレミアクラスにデビューする。
開幕戦で最も地元の注目と期待が集まるのは、タイ人として史上初めてプレミアクラスに参戦するソムキアット・チャントラ。ホンダ機に乗り込んで519ラップを周回すれば、フェルミン・アルデグエはチャンピオンマシンを駆けて423ラップを周回。3年ぶりに新人王争いが繰り広げられる。
Moto2™
総合1位小椋藍、総合5位フェルミン・アルデグエル、総合12位ソムキアット・チャントラがプレミアクラスに昇格したことから、タイトル候補の筆頭は4勝を含む8度の表彰台を獲得した総合2位アロン・カネト。
2月12日から2日間、アウトードロモ・インテルナシオナル・ド・アルガルヴェ、通称ポルティマオ・サーキットで開催されたプライベートテストでオールタイムラップレコードを非公式ながらコンマ3秒更新した後、2月18日から3日間、ヘレス・サーキット-アンヘル・ニエトで開催されたオフィシャルテストではオールタイムラップレコード1.1秒更新して連続1番手に進出。速さと強さを見せれば、ポルティマオではジェイク・ディクソン、マヌエル・ゴンザレス、ディオゴ・モレイラ、バーリー・バルトゥス、ヘレスではバーリー・バルトゥス、マヌエル・ゴンザレス、デニス・オンジュ、ディオゴ・モレイラがトップ5入り。
昨年11月の第19戦マレーシアGPで右手首と右足首を骨折した佐々木歩夢は、中量級2年目に向けて新天地のRW・レーシング・GPからテストを開始。回復具合を確認したポルティマオで87ラップ、ヘレスで140ラップ、計227ラップを周回すれば、全日本&アジア選手権チャンピオンとして古巣から中量級に初挑戦する國井勇輝は、初めてトライアンフ製のエンジンを搭載したカレックス機に乗り込み、81ラップと191ラップ、5日間で計272ラップを周回。
スーパースポーツ世界選手権からチャンピオンのアドリアン・ウエルタス、軽量級から総合1位ダビド・アロンソ、総合2位ダニエル・オルガド、総合3位コリン・ベイヤー、総合4位イバン・オルトラが初参戦。開幕戦でデビューする。
プライベートテストで左手の小指を骨折したアロンソ・ロペスは手術を受け、開幕戦に間に合いそうだが、オフィシャルテストで右手を骨折したセルジオ・ガルシアは欠場。
Moto3™
ポルティマオでのプライベートテストはアンヘル・ピケラス、ダビド・アルマンサ、ホセ・アントニオ・ルエダ、スコット・オグデン、ルカ・ルネッタがトップ5入り。ヘレスでのオフィシャルテストはホセ・アントニオ・ルエダ、ジョエル・ケルソ、ダビド・ムニョス、アドリアン・フェルナンデェス、アンヘル・ピケラスがトップ5入り。
参戦6年目を迎える山中琉聖は、ポルティマオで92ラップ、ヘレスで170ラップ、5日間で計262ラップを周回。参戦4年目に挑む古里太陽は72ラップ、147ラップ、計219ラップを周回した。
ジュニアGP™世界選手権、またはレッドブル・ルーキーズ・カップからダブルチャンピオンのアルバロ・カルペをはじめ、グイド・ピニ、マキシモ・キレス、マルコス・ウリアルテ、コーマック・ブキャナン、ルケ・モードレー、バレンティン・ペローネが昇格。2021年に総合2位、2022年に総合3位を獲得したデニス・フォッジャが2年間の中量級を経て軽量級に復帰する。